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「言っておくけど、僕は過去の話をしてるんだよ?」
私の心中を察したのか、彼は俯いてる私の顔を覗き込むように身を乗り出してそう言った。
「今はそう思ってない。いや、思わなくなった」
「どうして?」
「君と出会ったからかな」
その言葉に、私は目を見張って彼の顔を凝視してしまった。
「さっきの君じゃないけど、僕も君と出会う為に生れて来たとは言えない」
空になったカップを弄び、俯きがちにそう言う。
「でも君に出会えたことで、僕は確実に変わった。
生きる意味を探すことを辞めたんだ」
カップを置くと、彼は何かから解放されたような、穏やかな笑顔を浮かべた。
私は彼に特別なことをしたつもりはない。
でも私の存在が彼を変えたと言うのだろうか?
「 私、何もしてないけど…」
「そうだよ、何もしてない。だからだよ」
分からない。
私がきっかけなのに、私は何もしてない?
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