序章 人力車をひく女

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ここは冥土の一歩手前だよ。アンタ、自分が死んだことも覚えてないのかい? だから冗談じゃねえってば。旦那さんもしつこいねえ。 家に帰らなきゃって? 何度も言うけどさ、旦那さんはもう死んでるんだって。 家じゃなくて土にでも還るしかねえよ。 ああ? うるっさいな。ガタガタ吐かすんじゃないよ。 そんなに家に帰りたきゃ、勝手に帰りゃいいじゃねえか。 ――――あ? 道が分からない?私だって旦那の家なんざ知らねえよ。 でもまあ、こっちも生業ってもんがあるからね。あんまり怠けてっと、お上(かみ)はうるせえしなあ。 三途の川まででよけりゃあ、乗せてってやるけどどうする? ……悪かったね、ボロい俥(くるま)で。 一応、人力車なんだよ。 で、どうする? 乗るの? 乗らねえの?
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