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「はぁ……はぁ……はぁ……」
月明かりが辺りを照らす中、薄暗い中でもよく目立つ、炎のような赤色の髪の青年はその場に崩れ落ちるようにして座り込んだ。
額から流れ落ちる汗を拭おうとせず、疲れ果てた表情の青年はその髪の色とは対象的な、澄んだ海のような碧い瞳で辺りを見渡す。
幾つも建ち並ぶ家々は、長い間人が住んでいる様子もなく、一部が崩れ果て瓦礫となっている。
雑草は無造作に生え、一見してここがひと昔は活気のある町だったとは、想像だに出来ない程だ。
青年は次に自らの着ている複雑なルーンが刻まれたローブを見回した。元は美しかったのであろうローブは今は土で薄汚れており、所々が破れ焼け焦げたような跡があった。
彼の身体の細かな傷を見ても何者かと闘ったと、その姿で容易に想像できる。
青年は震える自らの手を強く握りしめ、空を仰ぐと、彼の表情をまるで写すかのように暗闇を照らしていた月が雲に隠れ、辺りをさらに暗くした。
視界が悪くなる中、瞳を閉じ青年は口をゆっくりと開く。
「次は……負けやしない……」
青年は深く息を吐くと小さな声で何かを呟く。
魔法の詠唱だ─────
すると、彼の言葉がまるで形を成すかのように淡く光が全身を覆い、みるみる身体の傷を消していった。
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