己の命よりも

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      (………すっかり遅くなったな…) その日、彼女は帰宅が遅くなっていた ケータイ電話を見ると、"PM 23:30" ゆっくり静かに、玄関を開ける…… (…寝てる……?……父さんも?) あれほど気配に鋭い父が、 今日はどうやら眠りこんでいるらしい。 「……起こしちゃ悪い…」 自分の部屋へと静かに戻り 窓を開け 器用に屋根に登った これは彼女の日課だ。 「…………月が見えない」 いつも己を照らし、 全てを淡く 優しく 包んでくれる月が 今日は黒い雲に見え隠れしていた。 (……明日、雨かもな) と、その時雲の切れ間から少し、 月がのぞいた 「…っ!?」 一瞬……月が、赤く見えた。 「………見間違い…?  でも、なんか綺麗だった…………」 彼女にはそれが、美しく思えた。 彼女の長い赤がかった黒髪が風になびく…― "……………っ" (?………父さん?) 微かだが、何かが聞こえた。 (………なんか、変な感じ) 彼女は、なにやら言いきれぬ不安を抱き 父と母の部屋へと、向かった……―
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