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気がつくと、荷物と上着を持たされてタクシーの中に座っていた。
「K大学病院へ」
先生が青い顔のまま運転手さんに告げ、私に心配そうに目を遣る。
発進するタクシーの中、私はただ呆然と流れていく景色を見つめていた。
「お母さまが、事故に」
先生のおっしゃった言葉。
嘘。
嘘だ。
昨日、寝る前に見た顔が、胸に浮かぶ。
あんなに穏やかな顔をしていた母が、私ひとりを置いて死んでしまうはずがない。
今朝寝坊寸前で目覚め、家を飛び出してきた私。
母がどんな顔をして寝ているか、どんな服を着ているか、どこに出かけていたのかさえも、知らない。
母の最後の言葉が、あんな、なにげない、普通のものなんて・・・。
「おやすみ、エリカ」
ゆうべ、寝る前にかけてくれたその言葉が、最後の言葉。
そんなこと、あるわけない。
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