13年後のクレヨンしんちゃん

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でも今は、そんな力も出ない。 とりあえず丸くなると、体がゆらゆらとゆれた。 それがしばらく続き、次にゆれが収まって、足もとがひんやりとしてくる。 いきなり辺りがまぶしくなった。 目をぱしぱしさせていると、変なツンとした匂いがする手につかまれ、持ち上げられる。 いっしゅんだけ体が宙に浮いて、すぐに冷たい台の上に下ろされた。 まっ白い服を着た人が、目の前に立っている。そばには、しんちゃんのお母さん。 二人が何かを話している。白い人が、僕の体をべたべた触る。 しんちゃんのお母さんが、泣いている。 どうして泣いているのか解らないけれど、なぐさめなくちゃ。 でも、体が動かない。またあの眠気がおそってくる。起きていなきゃいけないのに。 なんとか目を開けようとしたけれど、ひどく疲れていて。 閉じていく瞳を冷たい台に向ければ、そこに映るのはうすよごれた毛のかたまり。 なんて、みすぼらしくなってしまったんだろう。 ああそうか、僕がこんなになってしまったからなんだ。だからなんだ。 だからしんちゃんは、僕に見向きもしないんだ。 おいしそうじゃないから。 あまそうじゃないから。 僕はもう、わたあめにはなれない。 わたあめ。 ふわふわであまあまの、くものかたまり。 いちど地面に落ちたおかしは、もう食べられないから。 どんなにぽんぽんはたいても、やっぱりおいしそうには見えないよね。 だけど、君はいちど拾っててくれた。 だれかが落として、もういらないって言ったわたあめを。 だから、もういいんだ。 何かにびっくりして、僕はまた戻ってきた。 見なれた僕のお家。いつもの匂い。少しはだざむい、ゆうやけ空。 口の中がしょっぱい。 「なんで!!!!!!」 いきなり、辺りに大声が響いた。びりびりとふるえてしまうような、いっぱいの声。 重たい体をひきずって、回り込んで窓からお家の中をのぞきこむ。 しんちゃんのお父さんとお母さん、ひまわりちゃん。 そして、僕の大好きなしんちゃんも。 みんなみんな、泣いていた。
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