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母親と避難途中だった彼女が目にしたのはここまでだった。
避難した教会のラジオで傍受した避難勧告を発したSー1の無線音声は,ノイズと爆音で聞き取れる状態ではなかったが,そこには確かに父の息遣いがあった。
複数の敵から雨のように撃ち込まれる弾丸を必死に避けながら,仲間や家族を守らんと奮闘する一人の男の姿が,彼女にははっきりと見えた。
遠くで聞こえる轟音も,ラジオから聞こえる呼吸も,彼女には目の前で起こっていることのように感じた。
そして彼女の目に,敵の剣がSー1の右肩を,左大腿部を溶断する光景が映り,とっさに父を呼び叫んでいた。
何度も何度も,気が狂ったかのように何度も呼ぶが返事はなく,カジュールのマニピュレータがSー1のコックピットハッチを叩き潰すビジョンが彼女の脳裏に焼き付き,ふっと意識を奪った。
ザザ,,,,ザ─────
リリィ,,,,ザザザザ,,,,
お前は,俺のようには,なるな,,,ザザザザ─,,,,
ガシャァッ─!!!!!!!!!
リリィの父ルイスの最後の言葉の数秒後
ラジオからは,自動車をシュレッダにかけたような凄まじい音が鳴り響いたという。
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