Episode 1 『リリィの記憶』

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部屋から出ようとドアを開ければ,その部屋がキャンピングトレーラであることがよくわかる。 旧市街の一角,瓦礫の中に隠れるように停まったホバートラックと,それに牽引されているホバートレーラ群。 その真ん中に4柱式のテントが張ってある。 それが彼らLGメンバーのパブリックスペースであり,時には作戦会議の場にもなる。 大きなあくびをしながらパブリックスペースに顔を出すリリィに先客がおはようと手を挙げた。 きちっとした身嗜みで清潔感のある青年,彼はドイツ出身のVHASパイロット,名はハイドリッヒという。 彼はいつも一番最初にこの場所に現れ,だいたい次に彼女が現れる。 いわば今日もいつもの光景であった。 「リリィ,そろそろ買い出しに行かないと,,,食事は愚か,モーニングコーヒーですら今日で最後になりそうだ。」 と笑いながら言う彼は,大人しい見た目とは裏腹に,なかなかのジョークセンスの持ち主なのだろう。 リリィも吹き出しながら買い出しの準備を始めている。 LGには軍とは違い,総本部というものがない。 そのため,階級もなければ湯水のように湧く軍資金もない。 買い出しは月に2回程度,主なものは食料品,衣料品,消耗品,酒,煙草,燃料などである。
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