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―――3時。
それを夜中と言うのか、もう朝方と呼ぶのか俺は知らないけど、そんな時間に訪れた白井の部屋。
部屋の中が真っ暗なのは外から見てわかった。
もしかしたら、寝ているのかもしれない。
もしかしたら、泣いているのかもしれない。
そんなことを考えていると、一瞬だけ、部屋に入るのが躊躇われた。
ほんとに一瞬。
心臓らへんがざわざわと揺れて、心拍数が上がっていくのに気づいたから。
理由はきっとそうなんだろうと思うくらいには心当たりがあるけれど、それは俺が弱いせいだから…理由にしちゃいけない気がした。
だから一瞬手放したドアノブをもう一度掴み、力強くぐいっと手前に引く。
「入るよー?」
玄関の電気をつけ、その眩しさに目をしょぼしょぼさせながら奥へと入っていく。
聞こえるように言ったはずのその声は、あまりに静かな部屋へと消えてった。
パチリ。
「な、んだよ、起きてたのか」
部屋の中心にある電気をつけてみると、イスに腰掛けて俯いているソイツがいた。
寝ているようにも見えたが、ゆっくりと顔を上げた白井はゆっくりと笑った。
「きくち、おかえりー」
にへら、と。
いつもと同じように笑う白井は、前からなにも変わってないように見える。
なにも変わらず、なにも違わない、『しらいてつや』。
でも――そう見えるのは、ほんの少しの間だけ。
夢は寝てから見るもんだって、どっかの誰かが言ってたけどその通りだ。
起きてるときは、現実しか見れないようになってる。
たとえ、儚い願いを持っていたとしても。
「おぉ、ただいま」
「遅かったね」
「…ちょっと飲みすぎたかな」
「うん、顔、あかいもん」
白井が立ち上がる。
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