76人が本棚に入れています
本棚に追加
小さく、
うん、わかった
という返事が聞こえた。電話越しに感じるセンチメンタルな声。
吐息のような返事に、俺まで消えていきそうだった。
いやだいやだと、泣きつかれたほうが、まだマシだったかもしれない。
ごめんな、と言ってから電話を切った。
「大丈夫か?」
戻ってきた俺に、井本さんが煙草のけむりを吐きながら、そう聞いた。
「大丈夫です、すいません」
笑顔で携帯をしまう。
元の位置に座って、隣にいる、既に泥酔状態の森木さんをツッコんで、酒を呷って。
『いつもの俺』を装備。
誰にも、なにも、悟られない方がいい。
少しの歪みがわかれば、どろどろと全部流れ出てしまうから。
「菊ちゃん、なんかあったら言わなアカンで」
「……なんもないっすよ!?」
…でもたまに、吐き出してしまいそうになる。
白井がくれる愛を。俺たち二人の歪みを。
――僕の側にいてよ。
どこのカップルだって、言いそうなセリフ。
だけどあいつは、白井は、そんな軽い意味じゃない。
俺に触れる奴らを嫌う。
俺を奪う奴らを嫌う。
俺と笑う奴らを嫌う。
俺の視線の先にあるものを嫌う。
俺が、泣くのを嫌う。
そんな愛をくれる白井が、俺は大好きだ。
だけど、いつか必ず壊れてしまうあいつを、俺は見てるだけしかできない気がして苦しくなる。
無力な自分に何か出来るとするならば、見てることだけなんだと。
「菊ちゃあん、好きー」
「あーもうハイハイ」
俺はダメな奴だ。
視界の端からだんだんと、歪みは広がっていく。
だけどまだ、この人たちといることを許してほしいと願っている。
――なぁ、頼むよ。
白井。
先輩たちに囲まれながら、俺は白井のことを考えた。
白井のことを考えながら、この人たちとの未来を望んだ。
俺は。
中途半端で、最低だ。
.
最初のコメントを投稿しよう!