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もしも…おまえにこの気持ちが伝わったなら――
なにかが変わるのかな。
伝わってしまったら――
もっと、変わってしまうのかな。
「…ねぇなんで」
いつのまにか、涙で頬を濡らすこいつがいた。
それに気付いているのかいないのか。
わからないけれど、俺を見つめる白井の瞳は濡れながらもまっすぐだった。
「きくちは」
“戸惑うことをしてたらきっと僕はおまえにおいてかれちゃうんだ。
だから僕は菊地がすきできらいでめんどーでそれがちょうどよくて大好きなの。”
いつかの言葉を思い出した。
まだ、俺以外にも笑顔が向けられていた頃のはなし。
へらへらと笑いながら、そんなことを言った。
俺はそのセリフを深く読むこともなく、バカかって返したっけ。
いまさら後悔したって遅いけど、もっとこいつのこと、考えてやればよかったのかもしれない。
あいの言葉。
色あせていく記憶とそれでも残る思い出と。
気付かされる。
誰がそれを望んで置いてったのか、嫌でも気付かされた。
鼻の奥が、ツンとした。
「ずっとずっときくちはね、僕のすべてなの」
だから。
「だから、おねがいだから、僕にはきくちが必要だから」
だから。
「だから、捨てないで」
だから。
「ごめんなんて、言わないでよきくち……」
だから俺は、忘れられない
“好き”
という感情を、こいつにまだ持ってるんだろう。
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