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「…きくち、すきよ」
そのまま唇を塞がれた。
俺もだよ、と言えないまま。
その告白は、口内で溶けて消える運命だったんだろうなぁなんて悲しいことを思った。
だから俺も消えちゃう運命にあるのかも。
こいつに消されるのか、あるいは自然消滅??
なんだっていいけど。
なんだって、悲しいよな。
白井の流した涙が、頬を伝って俺に触れた。
それからまた俺の頬を伝って――唇に触れた。
しょっぱくて、
くすぐったくて、
柔らかくて、
さらさらしてて、
どこか重くて、
温かくて、
冷たくて、
誰かもうひとりに、キスされてるみたいだった。
ごめん、と。
そのひとことは、謝罪は、こいつにとって終わりを意味するんだろうか。
それさえもこいつのなにかに触れてしまって、それが原因で、壊れていくのかな。
それなら俺は、どうすればいいんだろうか。
脆くなってしまったこいつの心をどうにかこうにか、どうにかこうにかするには。俺は。
「ずっとここにいて?」
「……………」
「そしたら、なんにも問題はなくなるでしょ?」
―――俺は、ほんとうに
それしか できない?
白井が、笑う。
やっぱり、この笑い方はずっと昔のままだ。
ずっと、変わらない。
変わらなくて、うれしい。
ツンとした鼻が痛みをこらえきれなくて、むせる。
流れてきた涙が言うセリフは
「ごめん」だった。
すきよりも、あいしてるよりも、ごめんと言う涙。
でもそれは、こいつには伝わっちゃいけないんだろう。
「なんで泣くの?」
白井の指が目の下を通って、そのままぺろりと口に含んだ。
「…んん、しょっぺえ」
舌を突き出す。
「しおあじ」
おもわず、笑う。
「…当たり前だろ!」
「そうだけどー」
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