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きくちがいてくれたら
ぼく、なんもいらない。
―――俺は笑った。
どろどろと、歪みはあふれる。
それは故意じゃなくても。たとえそれが意志のもとであったとしても。
もう後戻りはできないのかもしれないな、と静かに悟りながらまぶたを下ろした。
ぎゅう、と閉じた瞳の奥で記憶という思い出がリプレイされて痛みを感じた。
いっしょにいたい、と思ったあのひとたちの顔がスライド写真のようにまるで最期のように、あふれてきて、痛かった。
だけど、これも終わりなんだろうこんな感情も。
ヴー…ヴー…ヴー……
……携帯が揺れる。
「なってる」
「…ん? いいよ」
「そっか」
震えの止まった携帯をちらりと見てから、深呼吸。
ごめんなさい。
井本さんだったら、次会ったときキレられちゃうよ
なんて。
「きくち、きくち」
「なに?」
「呼んだだけー。バーカ」
「殴るぞコラ。……」
……………俺もさ。
ほんとはさ。
たぶん、だけど。
「…俺、愛されてんのな」
しみじみと口にだすと、白井は一瞬ぽかんとして次の瞬間
「きもちわりぃー」
と、笑いだした。
きもちわりぃってなんだよ
ってツッコんで
抱きしめられた。
「たぶんさ、俺もさ」
「うん」
「おまえがいてくれたら、いいんだと思う」
ゆがんでるんだ。
誰だって、それは小さいか大きいか曲がり具合の問題ってだけで、誰だって、歪んでる。
「おどるのー」
また、わけわかんないことを言った白井の口からこぼれだすわるつは、ただただ高音の音楽だった。
どっかで聞いたことある。
……………まぁ、いいか。
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