第一話 お近づきになりたいのだが

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 さっきまでの柾への怒りはどこへやら、エミちゃんはすぐに心の底から心配そうな表情をして楓希に駆け寄った。  楓希は困ったように苦笑した。  「違うよぉ。そういえば、名前聞いてなかったなぁ、と思って」  「もー、あんな不良のことなんかいいでしょ~!もうきっと一生関わりなんてないって!てか、私たちもそろそろ引き上げよ?他の委員の人達も行っちゃったし」  楓希はちょっと考えてから、  「ん~…」  空を見上げた。  朝陽が昇って数時間経った春空は、綺麗な薄い水色に澄んでいた。  風が吹き、また桜の花びらが舞う。  「まいっか!よし、エミちゃん行こ~」  そして二人は校舎の入口へと歩いて行った。  エミちゃんの後ろに続きながら、楓希はもう一度空を見上げて、大きく空気を吸い込んだ。  (ふふふ、始業式にこの天気、良いことありそ~)  楓希は嬉しそうに、エミちゃんの隣まで駆けて行った。  ***  ザッ…  校門右の校舎の陰から、人影が出てきた。  「…行った、か」  どうやらずっとさっきまでのやり取りを見ていたようだ。楓希たちの後ろ姿が見えなくなるまで、ずっと見続けていた。  整った少し長めの黒髪の少年。
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