アキラ

23/32
前へ
/289ページ
次へ
午後十一時、いつもの丘の上に行くと、明はすでに到着しており、月明かりに照らされた街を静かに眺めていた。 月王は何も言わず隣に並ぶ。 一言怒鳴ってやろうと思っていたが、物憂げな表情の明を見て止めた。 この一週間の間に何かあり、それを今から話してくれる、その時まで静かに待った。 「月王、俺……美月にあったんだ」 沈黙を破った言葉はあまりにも意外だった。 「覚えてるだろ?」 勿論覚えている。 二年前、どんな事でも話せるこの丘の上で明は月王に告げた。 『俺、美月の事が好きだ』 『そうか』とだけ月王は返した。 なんでも話せるこの丘の上で一つだけ話せなかった事…… 月王も美月の事が好きだった。 二人が部活をやっている横で、吹奏楽部だった彼女は黒い髪をなびかせフルートを吹いていた。 その姿はあまりにも神聖で、月王はとても声を掛ける事が出来なかった。 それは多分明も同じ気持ちだったであろうと月王は思う。 美月は二人にとって手の届かない高値の華だった。
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加