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午後十一時、いつもの丘の上に行くと、明はすでに到着しており、月明かりに照らされた街を静かに眺めていた。
月王は何も言わず隣に並ぶ。
一言怒鳴ってやろうと思っていたが、物憂げな表情の明を見て止めた。
この一週間の間に何かあり、それを今から話してくれる、その時まで静かに待った。
「月王、俺……美月にあったんだ」
沈黙を破った言葉はあまりにも意外だった。
「覚えてるだろ?」
勿論覚えている。
二年前、どんな事でも話せるこの丘の上で明は月王に告げた。
『俺、美月の事が好きだ』
『そうか』とだけ月王は返した。
なんでも話せるこの丘の上で一つだけ話せなかった事……
月王も美月の事が好きだった。
二人が部活をやっている横で、吹奏楽部だった彼女は黒い髪をなびかせフルートを吹いていた。
その姿はあまりにも神聖で、月王はとても声を掛ける事が出来なかった。
それは多分明も同じ気持ちだったであろうと月王は思う。
美月は二人にとって手の届かない高値の華だった。
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