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そして、ワグナーの言葉に深く頷き、再びカルテの山と向き合った。
「悪いね……既に今ある薬じゃ効かない人も居てさ。新薬を考えてはいるけど、何かが足りない…サジ君なら解るかと思って…でも急がないと…」
「ワグナーさん……」
だが、そうやって呟くように吐き出される言葉は弱く、重なって聞こえた溜め息はあまりに深い。サジは眉間に皺を寄せてワグナーへ視線を戻した。
「貴方はお休みになって下さい。今日この後の患者さんは私が診させていただきます」
彼の身を案じての一言。だがそこにはもう一つの意味が込められていた。
「いやいや、君には薬を頼みたいから…」
「いいえ、お休み下さい」
首を横に振るワグナーとは別に、
「……あの子のためにも」
彼の瞳にはもう一つ、小さな人影が映っていたのだ。
「え……あ!!ドロシーちゃん!?」
そんなサジの言葉に導かれて視線をやれば、そこにはテディベアを抱えた一人の少女が立っていた。それはワグナーによく似た銀髪に碧眼の少女。
「駄目じゃないか二階の部屋に居ないと!」
ワグナーは慌てて椅子を立ち、少女に駆け寄った。二人が並べば、誰が言わずとも彼等の関係が見てとれる。
「……父様は?」
そして少女…ドロシーは小さく呟いた。その言葉の中に、彼女の寂しさと、父を心配に思う気遣いの双方が含まれているのだと、サジもワグナーも解っていた。そう、解ってはいるのだが
「ドロシーちゃん…悪いけど… 」
ワグナーはそう口を開いてドロシーの肩に手をやった。
「ワグナーさん」
しかし、その言葉の先を続けることはサジが許さなかった。
「後は任せて下さい」
そして、さらに…。
「ばっかもーん!!!!!」
何と、唐突に聞こえた怒声と共にワグナーがくらったものは見事な右ストレートだった。
あまりに唐突すぎた出来事に、サジはわけが分からず目を丸くした。確かにその声は聞こえた。確かに、低い男の声だった。そして豪快な右ストレートは、確かにドロシーの手元から放たれたように見えた。
「い……たぁぁあ!!いきなり何だよ…!!」
当然、見事な一撃をくらった当人のワグナーは頬を押さえて訴える。
「少しは娘の気持ちを汲んでやらんかこんのドラ息子!!」
だが、再び聞こえたその声。今度は確かに、その出所がはっきりと見えた。それはまさかの
「何ぃ!?ぁいたた…人形のくせに何て一撃を……」
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