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テディベアだった。
「誰が人形だ!!」
「あんただよ!!」
小さな少女の腕の中で、さらに小さなクマの縫いぐるみが、ワグナーと顔を突き合わせて豪語している。
「貴様!父親に向かってその口のきき方は何だ!!」
「今はただの人形じゃないか!!」
「ただの、だと!?お前は自分の作った人形に愛はないのか!?」
「愛!?悪いけどこのクマにはないね!!ただの人形だ!!」
「誰が人形だ!!」
「だからあんただよ!!」
驚くべき光景に、言葉もなく立ち尽くすサジ。だが
「…おお!これは申し遅れた!お初にお目にかかるなサジさん!私はこ奴の父、ルーク・アンネリスだ!」
クマはそう言ってサジに握手を求めた。見るからに縫いぐるみの手であるせいで、本当に握手というものなのかどうかは解らないが…。
「…初めまして。あの…ワグナーさんの、お父上でございますか…?」
一応、サジはそろそろと近付き、ふわふわのその手をとった。触り心地は抜群だ。
「今はただの人形だけどね」
「誰が人形だ!!」
「だから…!!」
再び始まりそうな父と子の口喧嘩。しかし、
「サジさん…今日、タオちゃんは?」
ドロシーは全くもって気にする様子もなく、近くまでやってきたサジの顔をじっと見つめた。
「ああ…今日は雪が酷かったので、宿屋で待っているのですよ」
サジがそう優しく言うと、ドロシーは困ったように眉を動かした。
「あのね、明日は父様とサジさんはお出かけだから、ドロシーはタオちゃんと遊んで待ってなさいって、父様が」
「…明日?」
そんなドロシーの説明に、サジはやや首を傾げるが
「ああそう!明日ね!王宮へは明日行くから!!」
ワグナーの付け足しですぐに話を理解した。
「明日、でございますか?」
「到着して早々急がすようで悪いけど…とにかく早く行きたくてね。サジ君の到着は今日だって聞いてたから、既に王宮にも返事はしてある」
確かに、急な話だ。しかし王の身に関わる事ならばサジも首を縦に振る他はないだろう。
「まああの方の事だから、自分より民を優先的にとは言うだろうけどね…僕にとってはあの方が最優先だから」
「…冬の王は、それだけ尊敬に値する御方だという事ですか…」
しかし、サジはまだ冬の国王をよく知らない。国籍を持たない彼は各国を渡りながら医師、薬師、教師と、様々な役割を果たして歩いている旅の賢者だ。
だが彼は過去に深い傷をもち、王という存在に複雑な想いを抱いている。
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