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「たっく・・・」 一人置き去りにされたニリクは、葉巻を取り出しかけたが施設内禁煙の文字が頭の中で浮き上がってきて、手持ち無沙汰となった。 規則の正しい呼吸に、屈んで無防備の寝顔を覗く。 「・・・本当に、こうして見るとただの小童なのだがな」 軽く頬を突いてみると、ごろりと寝返って、それでも起きる気配のない様子に、ニリクは自然と笑みを浮かべた。 「全く、変わらないな」 『銀眼の死神』と呼ばれた彼と出会ったのは、彼が十歳の時だ。 だが、彼が自分と会ったのは、実は大昔も前のことだ。 「あの頃から、全く変わっていないな。この寝顔は・・・」 頬を指先で突いてみると、柔らかい弾力で押し返される。 小さくて二足歩行もままならない頃も、こうしてよくこの感触を楽しんだものだ。 こちらの笑顔に、何の疑いもなく華のように綻んでいた小さな小さな身体。 長い時間を置いて、再会した時は腰に届く位の大きさになっていたから、隠しながらも驚いた。 「これからが楽しみだな。しかし・・・」 一人で誰に話しかけることなく、ニリクは金色の瞳を細めた。 このままでは危うい。そんな危険さがある。そしてそれは、アサも同じ。 昨年から、ニリクはアサの瞳の奥にあるものを見抜いていた。それを指摘しなかったのは、純情な子供の心を尊重したからで、誰もが一度は体験するであろう仄かな気持ちに微笑ましく思っていたからだ。 だけど、今ではそれが重みとなっているようだ。無意識のうちに。 ギルバートは気付いているだろう。だが・・・ 「これだからヘタレは・・・」 本人が聞いたら思いっきり顰めるであろう文句を口ずさんで、ニリクは天井を見上げてため息をついた。
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