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「なんだい、それは?」と彼は尋ねる。ひどく落ち着いた、穏やかな声だ。しかし彼は質問した割に、答えを聞きたいという気はあまりないらしい。そもそも、彼はそんな事は既に知っているはずなのだ。
しかし私は答えなければならない。答え自体よりも、答えるということに意味がある時もあるのだ。
「小さい頃に読んでもらっていた絵本よ。今となってはもうあまり覚えていないけれど、大体そんな内容だったと思う」
彼は黙ってうなずく。
「とりたててその絵本が好きだったわけではないんだけど、むしろシンデレラや人魚姫の方が好きだったのだけど、でも何故だかふと思い出すの。ねぇ、何故だと思う?」
今度は私から尋ねる。私の方は先程の彼とは違って、答えを欲する聞き方だ。私が知っていることは少ない。
「それは―」と彼は言葉を区切る。「難しい質問だね。君は時々勘違いをしているようだけど、僕の知っていることは、大体において君のそれと変わらないよ」
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