4人が本棚に入れています
本棚に追加
私の知っていることと、彼の知っていることが大体同じだという言葉に、私は少しがっかりする。
夜の闇は漆黒ではなく、空の裏側から別の色が染みていた。それは何色と呼べばいいのか分からない。その、何か漆黒ではない色の闇を浮遊するように、星が瞬いている。
以前、私に「星が瞬くのは、空気中の汚れ等によって、僕たちの目に届く光が時折遮られるからだよ」と教えてくれたのも彼だった。
一体彼は何を知らないというのだろう。
「『夕暮れの国』か、」と、彼は独り言のように呟く。「とても不思議な響きだ。気に入った」
それは、あるいは独り言だったのかもしれない。私と彼の間で紡がれる会話は、他のどんな会話とも違っているから。
「『夕暮れの国』は誰が書いたのかしら?」
「それはまた、難しい質問だな」
「難しくなんかないわ。あなたがそれを知っているなら答える、知らないのなら答えない。それだけのことよ」
すると彼は少しの間沈黙する。張り詰めるような居心地の悪い沈黙ではない。言葉という繋がりがなくても、同じ入れ物の中で、私たちは同じ沈黙を共有している。
しかし、何故彼は何も言わないのだろう。これは「知らない」という、彼の答えなのだろうか。
「物事には必ず順序というものがある」
彼は唐突にそう言った。
順序?
「順序というものは守らなければならないんだ」
そんなことは分かっている。そんな単純で明白なこと、私でなくとも知っている。しかし、今の問題に関して「順序がある」と言われても分からない。『夕暮れの国』の作者を知る前に、何かすべきことがあるとでも言うのだろうか。
彼は、いつだって謎のような話し方をするのだ。
最初のコメントを投稿しよう!