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「考えているね」
彼は言う。私は黙っている。
「考えるということは、何に関しても良いことだ。何に関しても、ね。でもたまには考えても中々進まないことだってある。
だからこれは僕からのちょっとしたヒントだよ。今の問題に関して言うなら、君は『夕暮れの国』を探すことから始めればいい」
彼はそう言って静かに微笑む。そして、唐突に私を抱き締める。決して乱暴な動作ではなく、ふわりと、卵を温める親鳥のようにそっと。
「何だか、騙されているような気がするわ」
「誰が、誰に?」
「私が、貴方に」
「それは心外だな」
彼はそう言って笑った。彼の髪の毛の触れる耳元と、胸の辺りにくすぐったさを感じて、私も少し笑った。
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