冬、中学、本屋

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彼の笑顔に思わずコートを返してしまう。 バカなんだ、私は。 「で、本を買いたいんだけど…」 またまた悪あがき。 このくらいの勝手な割引、許されてもいいでしょ?お父さん。 「が、学生証!」 自分でもビックリするほど大きな声が出て、彼もキョトンと目を丸くする。 「が、学生証があれば5%割引なんです……」 「ありがたいんだけど……僕、この辺りに住んでる訳でも、この辺りの学校にも通ってないよ?」 彼は優しい人なんだ。コートだってこの割引だって。 「か、構いません!学生さんは皆割引します!」 今度は彼が折れてくれて。 この辺りの物じゃない学生証を取り出して、私に差し出す。 偽物なんか彼が差し出すわけないのに、無駄に念入りにチェックしたりして。 「市外の学校だから、寮住まいなんだけど……確認できた?」 「はいっ!2100円になります」 彼が代金を支払って店を出るまでしっかり見送って、姿が見えなくなったら二階にかけ上がる。
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