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…――。 捲っていた日記を閉じ、その表紙をソッと撫でる。 「………また、会いたいって思ったのなんて、……初めてだ」 いつも、賭けに勝つことが目的で行ってただけなのに。 (…何でだろう……) ジッと窓から見つめる空は薄暗くなり、月がほんのりと輝きはじめる。 ノック音がし、外から少し高い少年の様な声が聞こえた。 「音ちゃーん、準備はいーい?僕、もう行っちゃうよぉ?」 「梛由汰か…、……今いく」 扉を開けると、小柄なつり目の少年が立っていた。 "巴梛由汰"、俺の主治医で保護者。 どう見ても十代の少年にしか見えないがこれでも三十路をとっくに過ぎ、どちらかと言うと四十に近い。 「…ふーん、顔色も良好。これなら今日も別行動で大丈夫だね」 「…賭けはどうする気だよ?」 「だってー、音ちゃん弱いんだもん。もっと修行してからね?それに今は、馬鹿なにゃんこで手がいっぱいだからー」 (馬鹿なにゃんこ?なんのことだろう…?) 梛由汰の言っている意味を図りかねて首を傾げるとその様子を見て苦笑する。 「弄ばれたい志願者」 「…は、…そんなドMいるんだ。趣味悪…。」 「…音ちゃん。後でたーっぷりお注射してあげるね♪」 ニッコリと嗜虐的な笑みを浮かべる相手を見て、忌々しそうに顔を歪める。 「…そんなことより、早く行くよ?アンタとの勝負…、絶対勝つんだから」 「はいはい、早く修行して挑んでおいで」 そう言って部屋を出ると、今日も夜の闇の中、煌々と輝く人々の欲望の賭場へと迎うのだった。
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