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【おまけ】
カジノ『Gold.』へ向かうため、車に乗り込む。
隣には、黒い髪に黒い瞳の青年。
機嫌が悪そうにふてくされている顔はまだ少しあどけない。
俺は、彼を保護している立場にある。
彼が俺の前に現れたのは今から約5年前―。
医師であった俺の屋敷に瀕死の重体で運び込まれた。
15歳。こんな子供が普通に負う怪我では無かったのは見て直ぐに解った。
緊急手術の結果、何とか一命を取り止めたが、その代償か彼は全く自分はおろか誰のことも覚えていなかった。
小さい頃は優しく真面目な少年だった記憶している。最近、見たときは随分と変わった印象しかない。
何があったのかは知らないが、記憶を無くすほどの出来事があったのだ。
俺が彼と血縁関係にあり、彼の取り巻く環境を知っている事は黙っておく事に決めた。
彼がどんな一族のどんな立場にあるかは、今はまだ知る必要のない事だから。
「…さっきの、馬鹿なにゃんこって、どんなヤツ」
ボソッと告げる彼を横目で見、にんまりと笑顔を作る。
「黒い髪に深い緑瞳のにゃんこじゃないから安心しなさい♪」
「べ、別に気にしてないっ!!」
明らかに不機嫌さを露(あらわ)にしている彼を見たあと、窓の外に目を向ける。
「……遊びでもいいから、傍にいたいなんて……なんて馬鹿な子」
俺の呟いた言葉は誰の耳に届く事もなく車窓から見える月光に吸い込まれるように消えていった。
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