4

7/13

41人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
「お客さ…「もう、二度とアンタの前に姿現さないから約束なんて守る必要ない」」 閑が何か言おうとしているのを遮り、言葉を続ける。 彼は、残酷なほど優しいから。 声を聞いてると折角の決心が鈍ってしまうから。 自分の感情を螺曲げてるのを悟られたくないから。 「………」 「………」 暫くの沈黙のあと、堅く握った拳を温かい何かが包み込む。 その感覚に肩を震わせ顔をあげた。 少し寂しげに笑う愛しい人。 胸がギュッと締め付けられる。 包んだ拳を柔らかな頬へ導き触れさせる。 「……ここは貴方だけの、特権です。そうお約束しました。僕にとっても大切な約束なんです」 「……っ」 頬に触れてる手が、彼の手に包まれている手が、微かに震える。 触れれば想いが強くなるから、我慢してるのに。 だから、触れないようにしようとしてるのに。 「………いい。返す。…これも、返す」 スカーフの下に隠すように着けていた涙の石を外し閑の胸に押し付ける。 頬から手を離し俯いたまま彼に背を向けた。 「……じゃあ、ね。楽しかったよ……」 「また、お待ちしております」 彼の言葉にピクリと肩が揺れる。 「…っ、もう来ないって言った…」 「……それでも、お待ちしております…。……音様」 初めて名を口にしてくれたのが、こんなときなんて。 なんて皮肉。 ゆっくりと肩越しに振り返り小さく言葉を零す。 「………音夜。俺の本当の名前は音夜だよ」 「……綺麗なお名前です。では、お待ちしてますからね。音夜様」 優しく微笑み恭しく一礼する彼の姿を目の端にとらえたあと、再び前を向き歩きだす。 決して振り返らずそのまま【Gold.】を後にした。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加