おぼえていますか?

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カナルハウス 彼が教えてくれたように17世紀初頭に貿易で栄えていたオランダでは ここ アムステルダムに豪商達が集まり競い合いあって邸宅を建てた 有名な話しだが同時のオランダは建物の間口の広さで税金を課せられていた なので考えた人々は横に狭く 上に高く そして、奥に深い まるで豪邸には見えないレンガ造りの積み木でこしらえたような可愛い建物を建てて税金逃れをしたのだ 隣同士がピタリとくっついて そう、まるで京都の町屋にある ウナギの寝床と呼ばれるように奥に伸びている このファイゼル通りには最も美しいと言われるカナルハウスが立ち並んでいる どれも同じ様に見えるがファザードと呼ばれる美しい装飾がそれぞれに施され個性を競っている 一番上には大きな滑車のようなフックがどのカナルハウスにもついている 入り口が狭く家具や大きな荷物が入らないため ロープで吊り上げて、窓から出し入れしていたらしい 「日本の引っ越し屋さんみたいね」 と蓮がフックを見上げて言うと 奏は声を出さずに笑った カナルハウスは今は殆どが美術館や商業施設、ホテル またはそのまま博物館として利用されている 美しいカナルハウスの前をどんどん素通りして 古びた建物の前で彼は自転車を停めた 「ここ?」 うん と頷く 重い木の扉を馴れた手つきで開けて奏は入っていく こちらを振り返り 『おいで』と手招きをする どうやら1階はギャラリーか何からしい 古い額縁が所狭しと並んでいる 奏は小さなカウンターにある呼び鈴を チンッ……と鳴らした すると奥からおじいさんが出てきて彼に何やら話している あいにく言葉が全くわからない蓮は ただ小さくなって辺りをキョロキョロするしかない あっ……ステンドグラス 幾つもの美しい大小のステンドグラスが無造作に置かれている おじいさんが何かを話し掛けてきた 「何て言ったの?」 奏に聞く 彼はまたノートを取り出して 『オレが作った』 「え……あなたが作ったの?」 おじいさんは店の窓にはめ込まれたステンドグラスを指差して コレもヤツが作ったんだよ と身振り手振りで教えてくれた
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