おぼえていますか?

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「あなたステンドグラスの職人さん?」 『はい!』 さっき見たはにかんだ笑顔を見せた 驚いた ステンドグラスの仕事をしている事にも驚いたが 彼が 『オレ』と書いた事に少し驚いた 私達はいつの間にそんなに親しくなっていたのだろう 決して嫌な感じではなかった ただ 不思議だった 奏は天井を指して 『上も見る?』と書いて見せた 「いいの?」 うん 暗くて狭い急な階段を昇って行く 古い木の階段は一段昇るたびにギシギシと恐ろしい程の音をたてる 建物の構造からして外からの日差しが届かない 「暗いのね……」 不意に手が目の前に差し出される 「あっ……」 奏は小さく頷いて 『ほら、つかまって』と言うようにグッと手を出す 白く長い指 薄暗い階段でその手は ゾッとするほど美しかった ふと いつも夢で見る肘から下だけしかない腕を思い出した 蓮は 遠慮がちにその長い指に触れる 美しい指とは裏腹に ギュッと力強く握り返しグイッとひっぱってどんどん昇っていく 橋の上で肩を抱き寄せた手 さっき 赤いパプリカを半分に切った手が 今、自分の手をしっかりと掴んでいる 嫌だ……私、この綺麗な手に触りたかったんだ 急に顔が熱くなる それと同時に蓮は自分が物欲しそうな女みたいで嫌になる そういう事は卒業 もう、ごめんだ…… 大きく深呼吸する 奏が不思議そうな顔で振り向いた 目が合う そして 薄暗がりの中で息が出来なくなりそうな綺麗で謎めいた笑顔を見せた
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