おぼえていますか?

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階段を昇る間 私の意識は繋がれた手に集中していた 見た目の美しさとは違い固めの手のひらはほんのり温かく 職人の手といった感触 いったい何階まで上がって来たのかわからなくなるほどに その手に惑わされる これしきの事でドキドキするほどウブじゃないはず やっと辿り着いた最上階の部屋にはやはりステンドグラスが部屋中に置かれている 窓から外を覗くと下に彼が停めた自転車が見えた 奥にも部屋が幾つかあるようだ 「あっちの奥にもお部屋があるのね……」 見る? 「是非……あっ……」 急に足元がフラついた あれっ……様子がおかしい 何だか平衡感覚が保てずクラクラする 奏は 慌てて蓮の腕を掴んで支え 側の古びた椅子に座らせ 『大丈夫?』と囁く 「……どうしたんだろ、急に……何だか変な感じ……」 彼はチョト笑って 『ここに来た人は最初はみんなそうなる』 とノートに書く 「え?どうして?」 『地盤沈下がヒドくてこの建物が傾いてるから』 「あぁ……そうなんだ……どうりで気持ち悪いわけね」 『大丈夫?』 「ええ……平気、それよりこの部屋は何?」 『このフロアをボクが借りてる』 オレからボクに変わった 「ここで住んでいるの?」 『ここは仕事部屋。奥の部屋で寝てる』 「傾いた部屋で仕事出来るんだ……」 『何年もいるから馴れた』と笑う 「奥の部屋も見たいな」自分でもあつかましく図々しい女だと思った けれど 見たかった 彼の素顔が知りたかった 一番、知りたいのは どうして声を出して喋れないのか それを聞くにはもう少し一緒に この傾いた空間に居なければいけないような気持ちになっていた 『一番奥の部屋から中庭が見える』 そして 奏は蓮の肩を抱くようにそっと椅子から立たせてゆっくり歩きだした クラクラする それが彼のせいなのか 建物の傾きのせいなのかはわからない 『大丈夫?』と息だけで囁く 内緒話を最小限に小さくした感じ ドキドキが高まる 嫌だ…… どうしよう…… ノートへの筆談と不意に囁く内緒話 傾いた部屋 蓮は完全に自身の平衡感覚を失って行くのを感じた
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