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2人は部屋を出て暗い階段をゆっくり降りていく
カナルハウスを出て前を流れる運河の小さな船着き場から観光用のゴンドラが出ている
運河のゴンドラというとヴェネツィアの狭い水路をに浮かぶデコラティブな物を想像するが
目の前に浮かぶそれはシンプルな小舟だった
奏は何も言わず舟にポンッと身軽に乗り込み
蓮に手を差し出した
日の光の下で見るその手はやはり綺麗で蓮を戸惑わせる
このゴンドラで何処に連れて行かれるのだろう
けれど
差し出された手と眼差しには逆らえない何かがある
彼の手に掴まり恐々、乗り移る
その拍子に小舟がグラリと大きく揺れて
「きゃ……」
情けなく蓮は奏にしがみついた
そして
恐ろしく近い距離で目が合う
彼は笑わない
ジッと見つめ返される
時間が止まる
息がつまる
何?
何故そんな目で見るの?
舟の船頭さんが何か言って時間と舟が動き出す
ゴンドラは運河を上って行く
さっき通り過ぎた綺麗なカナルハウスが見える
別の運河との合流点の船着き場で奏は黙ったまま私の手を掴み舟から降りた
そのまま
すぐ上にある橋の真ん中まで来ると
ノートに
『左がレギュリルス運河、右がへーレン運河。ここから15の橋が見える』
そう書いて運河の先を指した
「あっ……ホントだ……」
まず日本ではお目にかかれないだろう景色だった
蓮は子供の様に
ひとつ、ふたつと数えてみる
「13、14……15……あっ!」
15本目の橋を見つけた瞬間
奏の長い腕が体にぐりると巻きつきグッと蓮を締め付けた
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