動き始めた歯車

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アムステルダム スキポール空港から東京の成田までは直行便で約11時間ちょっと 行きと帰りではジェット気流の関係で若干違う どちらにしても長時間、窮屈な姿勢で飛行機の爆音に晒されなければいけない 蓮は機内に乗り込むとすぐに薬をビールで流し込んで眠ってやろうと企んでいた 隣の座席は例の世話役のおばさんのご主人だった おばさんでないことに内心、ホッとする 悪い人でない事は良くわかっている それより 蓮自身がおばさん達の思っているような 「大事なお嬢さん」 でない事が申し訳ないと言うか いたたまれなくなるのだ 「帰ったら早速、お仕事かな?」 おじさんが独り言のように呟いた 「え?……あぁ、そうですね……」 「早川さんを見ていると娘を思い出すよ……」 「私なんて……」 「仕事も大事だけど自分の事も大切にしないとね」 「はぁ……」 「薬は水で飲みなさい」 「えっ……?知ってたんですか?」 「これでも医者だからね。行きの飛行機の中で見たよビールで薬、飲んだでしょ?」と笑った そうだった この人はお医者さんだったんだ 以前に確か名刺を貰った うっかりしていた 蓮の企みは失敗に終わりそうだ 最悪…… 蓮は 母が亡くなってからずっと薬のお世話になっていた 母の死を受け入れられない 別に そんな子供じみた理由からでは決してない
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