動き始めた歯車

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帰れば仕事が待っている なんて嘘 いや、確かに休暇を取って来ているのだから それなりに仕事は溜まっている けれど 自分が周りから期待などされていない事くらい承知していた 蓮は東京にある今の支店に来るまでは大阪にいた 新卒でいきなり関西に配属されたのだが それは本人が希望していたことだったので嬉しかった 母は一人暮らしをする事に心配はしていたが反対はしなかった 父は自分の仕事でいっぱいな人だ 1人娘なのに どこかしら子供に対する執着心みたいなものが当時の両親には感じられなかった どこかギクシャクした両親の元を離れたい そう思っていた蓮にとって大阪への配属は願ってもないものだった ところが 入社して1年ほど経ったある日、母の事故が起きた 慣れない一人暮らし 父への不信感 事故の衝撃 それらが重なり、体調を崩した 体調というより精神的に参ってしまった そんな蓮を公私ともに支えてくれたのが 当時の上司だった そこからはお決まりのパターン 励まし 慰めて貰っているうちに あっという間にそれは恋だの愛だのという幻想に変わり 2人は上司と部下から 男と女の関係に変わっていった ただ 男は既婚者 いわゆる不倫と言われる関係だった けれど蓮はそれ以上の事を特別に望んでいたわけではなかった 不倫をしていて ふてぶてしい女だと言われそうだが 奥さんと別れて自分と一緒になって欲しいなどとは思っていなかった 仕事を一緒して、時々は二人きりで逢って それだけで満たされた気持ちになって癒された たまに、もっと一緒に居たい衝動に駆られる事はあったけれど 若い女は面倒だ そして不倫とは どうしようもなく厄介な病気だ 一度、患うと完治するのには時間と相当の体力が必要になる 残念ながら 蓮には完治する体力はなかった
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