動き始めた歯車

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弱っている人間に恋という病は命取りになる事がある それが不倫となれば、多分それは 明るい未来などはない 終わりに向かって進んでいくだけだろう 蓮の恋もやがて寿命を迎える時が来た しかし、それはふたりの間に隙間ができたからではなかった 会社にバレたのだ 住宅メーカーでしかも一般のファミリー向け住宅を手掛ける彼にとって社内不倫は正に命取り 会社という組織は下らないがそういうものだ 彼は福岡の住宅展示場にいわゆる左遷になった 建築士として優秀だった人の未来を奪った 人の亭主を奪った 蓮は愛する人を失った事よりも 自分が奪った物の大きさに打ちひしがれた もう少し自分はマトモな人間だと思っていた 不倫はしても奪おうなんて思っていなかった 母を事故で亡くした可哀想な一人暮らしの私 結局は自分の事しか考えられない 恋の病魔に冒されたバカな若い女だった そして バカな女は最悪な事をする 死ぬ気もないのに 処方されていた安定剤や睡眠薬をありったけ飲んだ 蓮はあの時の事を思い出すたびに深いため息しか出ない オーバードラック 響きはいいが今、考えればあれほど愚かな事はない あの頃の私は いったい何を引き留めたくて自殺未遂もどきの様な事をしたのだろうか 彼に戻って欲しかったのか それとも 消えそうな恋心をとりもどしたかったのだろうか
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