動き始めた歯車

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「早川君はどこかな?」所長は皆を見渡す 「ハイ……」私は小さく手を挙げる 周りの視線が一斉にそそがれる そして次の瞬間その視線は好奇なものに変わる 「先日の新商品社内コンペで君の作品が採用される事になってね。おめでとう」 「は?……」 パラパラと拍手が起こる ウチのチームは拍手喝采 そして ひとり、私を不機嫌そうに睨み付けている人がいた それが 黒田 啓吾だった 社内の新商品募集があったのは数ヶ月前の事だった 私は図面を書く事は出来ないがデザインには興味があった しかし この世界は畑違いの素人が入って行く事を嫌う みんなプライドをもって仕事をしているからだ ところが意外な人から応募してみないかと誘われた 坂井チーフだった 「私の稚拙なデザインなんてお遊びみたいなものですから……」 そう言って断る私に 「工藤が面白いデザインだって言ってたし、今回は一般公募みたいなもんだから軽い気持ちでチャレンジしてたらどうだ?」 そして言われるままに一般住宅の部門に応募した 呆れた事に私は応募した事さえ忘れていたのだ 驚きはまだ続く 私のデザインを商品化に向けてチームが全権を任されたのだ そんな中、チーフは彼を紹介した 「黒田は輸入住宅をずっと手掛けてきたから今回も戦力になってくれそうだ。みんな宜しくたのむぞ」 チームのみんなの視線が彼の発言に注目する しかし 「どうも……黒田です」と無愛想に言っただけでサッサと自分のデスクに座ってしまった 瞳は眉をひそめて舌打ち 斎藤君は興味深々 チーフとイケメン営業の高崎さんは苦笑い ガウディ工藤は眼鏡越しに呆れたような冷たい目 そして私は 私は何も感じなかった 無愛想だろうがイケメンだろうが仕事さえ上手く回っていけば問題ない 黒田 啓吾に対してはそんな感情しか持たなかった どこか人を寄せ付けない雰囲気を漂わせている男だった それは蓮と似ているものがあった きっと その時からお互い似た匂いを感じていたのかもしれない
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