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啓吾はとにかく不機嫌だった
カナダから日本に戻されただけでもずっと不満だったのに
あらぬ噂を立てられ、こんな掃き溜めみたいなチームに放り込まれ
挙げ句、ワケのわからない素人女のデザインした下らないものの設計しなきゃならないなんて
冗談じゃない
こんな所、とっととオサラバして俺はカナダに戻ってやる
日本になんて何の未練もない
社員食堂
そこは社内のありとあらゆる情報が集まる所
啓吾はこの日本特有の雰囲気が嫌いだった
カナダにいた頃は食事やお茶、アルコールの席で仕事や人の噂話をすることなどなかった
ONとOFFの切り替えをちゃんとそれぞれが心得ていた
座る場所を探さなければいけない混みようにもウンザリする
やっと見つけ出した席は女3人の隣り
最悪だ
彼女達はチラリと啓吾を見て女同士どくとくのテレパシーを飛ばし合う
その中のひとりが気色の悪い声と喋り方で
「黒田さん……ですよね?」
「はぁ……」何だコイツと思いながらも一応、返事をする
「カッコいい……」別の女が小さく呟く
ゲッ……飯が不味くなる
「でも、早川さんがデザイン賞とるなんて驚きよねぇ」
別に聞きもしないのにその女達はベラベラと喋りだした
「どうせ坂井チーフがバックアップしたのよ」
「そうよね……坂井さんのお気に入りだもんね……」
「黒田さんは知ってます?早川さんは坂井チーフが大阪からわざわざ引き抜いてきたんですよぉ」
「大阪?……へぇ~」
訳ありって事か
しかし
あのチームの人間がなんらかの個人的感情と仕事を混同するとは考えられなかった
根拠は坂井が昔起こした武勇伝と同期の工藤がいること
それと
早川 蓮という女の第一印象がどことなく色恋沙汰からかけ離れて見えた
まるで
この世の果てを一度見て来たような
動物的な勘だが
自分と似たような匂いがした
「それはそうと、黒田さんってぇ~彼女とかいるんですかぁ?」
気色の悪い女の質問を無視して席を立つ
早川 蓮のデザインが急に見たくなったのだ
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