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その男はいきなり蓮の頭の上から無愛想な声をだした
「デザイン画見せて」
見上げると黒田が不機嫌そうな顔で立っている
蓮自身も人に愛想笑いをしたりしなくなって数年経つ
だから相手にそんな事を求めるつもりはない
それにしても初対面のクセに不躾なヤツだ
「それなら、工藤君が……」
言いかけたところへ、眼鏡に無表情のままの工藤が数枚のデザイン画を差し出した
それを黒田は無言で受け取り自分のデスクに持っていった
「なによ……あれ」
「さぁ……」工藤はニヤリと笑って
「それはそうとオランダの土産はないの?」
「え?チョコレート買ってきたじゃない」
「あれ、ベルギーって書いてあったけど。もう少しオランダらしい物なかったの?」
「オランダらしいってなによ?」
その時
ふと、アムステルダムの運河とカナルハウスの事を思い出した
「そういえば、カナルハウスの中を見てきたわ。住居としてちゃんと人が住んでる所」
工藤が眼鏡の鼻の部分をキュッと中指で上げる
話しに食い付いてきた時の彼の癖だ
「へぇ~カナルハウスかぁ……建て売り住宅でもあんな感じで並んでたら綺麗だろうな」
「あ~それいいかも……ただし周囲の環境に馴染めばだけどね……」
「まだ内緒だけどさ……今度、ウチの不動産部門が分譲する住宅街に建て売りを展開するらしい」
「へぇ……」
その住宅街はまさにひとつの小さな街作りをテーマに
この不景気の中、社運をかけたプロジェクトだと言うことは蓮も知っていたが
所詮、自分達のチームには無縁の事だと思っていた
バサッ
突然、目の前にさっきのデザイン画を突き返される
え……?
「こんなんじゃ図面になんか出来ない。素人かよ」
黒田が腕組みをして上から睨み付けていた
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