動き始めた歯車

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ムカつく けど、この手のヤツにムキになるのはエネルギーのムダ使いだ 「素人よ。悪かったわね」 「やり直し」 は? 蓮は思わず黒田の顔を見上げる 相手はジッと目をそらさずに闘いを挑んでくる 目の前に突き返された紙には赤いマジックでびっしりと書き込みがされている 「なにこれ……真っ赤じゃない……」 「赤で書いた所、もっと具体的に書いて持って来て」 そう言い捨ててデスクに戻っていった 「なによ……どういうヤツなの!」 普段、薬に感情を支配されている蓮はめったに怒りを露わにする事などなかったが 珍しく頭に来ていた 「アイツのスイッチ入れちゃったみたいだね」 工藤は意味深にニヤニヤしている 「なによそれ?こんなに真っ赤っかの紙を渡されて」 「ふふふ……原画じゃなくコピー渡して正解だったな」 そもそも自分で望んで商品化して欲しいわけじゃないし アイツに図面を書いて欲しいわけでもないのに 静かに水の底でじっと息を潜めて生きてきたのに 知らない侵入者に いきなり乱暴にかき回されて砂が渦巻きながら舞い上がる 腹立たしさと一緒に 胸の中にもザラザラとした砂が混ざる それと同時に真っ暗だった水底に海面から光が差し込む 真っ赤に添削された紙を見ながら蓮は、ずっと忘れていた感情のひとつを思い出したような気持ちになっていた 「黒田のデスクさ、早川ちゃんの後ろに持ってきた方がよさそうだよね……」 真剣な顔で眼鏡を上げ工藤が呟いた 工藤の言葉は蓮の耳には入らなかった 唇を噛み締めペンを走らせる 悔しい と、いう感情より何故か嬉しいに近い 蓮は不思議な高揚感でいっぱいになっていた
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