動き始めた歯車

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他の仕事を放り出して夢中で黒田の赤ペンに答える 持って行っては 「やり直し」の繰り返しを何度か続けているうちに蓮はいつの間にか、黒田とのキャッチボールを楽しんでいた 4度目に黒田の所に行った時には 先にOKを貰った部分の図面を既にヤツは書き始めていた 「帰るまでにはザックリ仕上げてやるよ」 生意気な言い方 でも蓮は その力強く自信満々に言い切る黒田を凄いと思った 謙虚さとか周りの顔色を伺わないとか 無駄に空気を読まない潔さ、図太さが新鮮だった こんなふうに男を意識すればその先にあるものが何であるか普通の女なら分かるだろう 蓮には、その先にある感情への神経回路が完全に遮断されている だから 今、自分の胸の中を掻き回しているモノの正体が掴めずにいた ただ 目の前のコイツなら解ってくれそう 漠然とそう思った 「俺の顔になんかついてますか?」 黒田は図面から目を離す事なく無愛想に言ったので 「男前だなぁと思って」と、蓮は無表情に言い返してやった 「はぁ?」 ギロリとにらみ返してくる 蓮は勝ち誇ったような満面の笑みを黒田に見せるとクルリと背を向け自分のデスクに戻った 笑顔は一瞬で消える ザマァ見ろ 「なんだ、あの女」 啓吾がひとり毒づいていると工藤がコーヒーを置いて 「ご苦労さま…」 「あっ……サンキュー」 「黒田と早川ちゃんって合いそうだな」と、含み笑いをした 「なんだそれ?気色の悪い笑い方すんなや」 「ふふふ……相変わらず怒ると大阪弁なんだな」 「うるさい!」 「早川ちゃん、俺はいいと思うんだけどなぁ」 「お前、あの女に惚れてんの?」 「センスには惚れてるねただ、女としては……ああいう危険な人はちょっと……」 啓吾は後ろから蓮を見て 手元のデザイン画と見比べる 確かに、インテリアコーディネーターにしておくのは勿体無いかも 柄にもなくそんな事を考えた自分に動揺する ややこしい感情を工藤の淹れてくれたコーヒーで流し込む それは ミルクと砂糖がたっぷり入った甘いモノだった
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