恋はしない

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薬の中身は主に安定剤や睡眠薬が数種類 素人でもお酒と一緒の服用がいけない事くらいわかる 啓吾が慌ててベッドに戻ると蓮の姿はなかった いや 正確にはさっき放り投げた姿がなくなり 布団の中でもぞもぞと動いている 「ちょと、オマエ……生きてる?」 「うぅ…………」 そして布団から次々といろんな物が出てきた スカート セーター ストッキング ブラジャー 啓吾は驚きを通り越しもはや安心していた そして あのバーで蓮が言った事を思い出す 大丈夫、いつもの事よ 工藤の言った ああいう危険な人はちょと…… こういう意味だったのか どちらにしてもヤヤコシイ女には間違いなさそうだ これ以上厄介な事に巻き込まれないうちに退散しよう 啓吾は寝室から出ようとして脇にある本棚を何気なくみる インテリア関係の本より建物や世界の庭といった写真集がズラリと並んでいた アンティークのスクールデスクにはいろんな建物のデザイン画が沢山、無造作に置かれている 「へぇ……」 中でも啓吾の目にとまったのは細長いレンガ造りの建物が幾つも並んだ物だった 「オランダのカナルハウスか……」 チラリと蓮を見ると寝息をたてている 薄暗がりの中で布団から出た 白い腕が艶めかしい 啓吾は何だか不思議な気持ちになっていた 上手く説明は出来ない ただ 蓮のことが 可哀想というのではないけれど 軽い火傷の跡みたいにヒリヒリ痛い 何が原因で彼女がこんなふうになったのかは知らないが 独り コイツも独りなんだ 女に対してこんな感情を持った事はなかった 厄介なヤツ 出ている腕をそっと布団の中に入れてやる そしてカナルハウスのデザイン画をコッソリ鞄にしまった 部屋の鍵をかけてマンションのエントランスを抜け玄関に出る 改めて見上げて 「すげぇなぁ……あれっ?」 ここは何処だ? あそこのコンビニってウチの近所の店にそっくりじゃん…… その時初めて啓吾はこのマンションが自分のアパートの裏で日当たりを妨げている建物だということに気がついた
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