恋はしない

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その事件は   プロジェクトが動き出し毎日、忙しくする中で起きた 蓮は黒田の言動にイライラして相変わらず喧嘩ばかりしていた けれど 仕事に入ると 同じ速さで心臓がうごき 同じリズムで呼吸している 生きてる 蓮は黒田といると 自分は生きていると感じる 恋なんかよりずっと効き目のある薬 昼休み フロアの外にある掲示板の前にちょっとした人垣が出来ている 蓮は気にすることなく自分のデスクに戻ろうとすると 瞳が 「蓮、気にする事ないよ」 「ん?何が……?」 「これ……」 と、言ってパソコンの画面を見せた それは社内メールだった 『早川蓮は大阪で社内不倫の挙句、自殺未遂を起こし不倫相手を左遷に追い込んだ。それに懲りず坂井チーフを誘惑して今回のデザイン賞も取ったらしい』   「何……これ」 「誰かの嫌がらせよ。無視するのよ」 瞳は言いながらフロアの外の人垣にチラリと視線を動かした 「なに?まさか……あの人達……」 「外の掲示板に同じ内容のコピーが貼ってある……今、斉藤君に剥がしてこさせてるから」 蓮は 勢いよく席を立ってフロアの外へ出て人垣に近づく 「蓮!待ってよ……」 斉藤が掲示板に近づけずオロオロとしている 瞳が追いかけてきて斉藤を小突きながら 「何をもたもたしてるのよ!早く剥がしてきなさいよ」 「いやぁ……でも、あの人が……」 その張り紙の前には 蓮の知っている男が立って まるで昔の瓦版の売り子よろしく喋っていた 「これ、本当の事だから!この早川って女はマジでとんでもない女なんだよ」 「何やってんだ?アイツ……アホか」 蓮と瞳、斉藤の後ろから黒田の声がして ズンズン人垣の中に入って行き わめいている男の胸ぐらを掴む と、それを遮るように誰かが黒田を押しのけた そして 次の瞬間、拳が男の顔面にぶち込まれた 黒田も周りの野次馬達も時間が止まったように固まっていた
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