恋はしない

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「痛っ!いったぁ~」 そう言ったのは 殴られた男の方ではなく 殴った本人 蓮だった 右手首を振りながら 「いててっ……」と顔をしかめる 殴られた男は床に尻餅をつき 鼻を押さえて凍り付いていた 押さえていた手をのけると男の顔半分が血だらけになっている それを見た人だかりの中の1人が 「きゃっ…」と短い悲鳴を上げた その声に蓮はやっと我にかえる と、同時に黒田に腕を掴まれ野次馬達の中から引きずり出され そのまま男性用トイレに連れ込まれた 「ちょっと……男子トイレなんだけど……」 「俺が女子トイレに入れるか?……オマエ、人を殴った事ないだろ?」 「えっ……?」 「下手くそなんだよ……殴り方が」 啓吾はハンカチを出すと水で湿らせ 蓮の右手に当てながら 「大事な右手をつまらん事に使うな」 ジンジンとする右手がヒンヤリ でも 手首を持つ啓吾の手からは彼の体温が熱い ヤダ…… 恋なんてしない 恋なんて大嫌い メープルシロップみたいな琥珀色の甘い液体が 流れ込んでくる 右手首を掴んでいる彼の手からどんどん入ってくる 「今夜、奢れよ」 啓吾はそう言って見たことないような優しい目をした ヤダ…… 恋なんて大嫌い 恋なんてしない 蓮は呪文のように自分に言い続けた
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