恋はしない

10/22
前へ
/196ページ
次へ
甘い気分は一晩のうちに消えていく 予想はしていたが 翌朝、会社に着くなり好奇の目で見られる それは大阪で不倫騒動を起こした時とまるで同じだった エレベーターでの微妙な空間 混み合っている社員食堂で 私の周りだけ不自然に空いている席 透明のバリアが出来ている しかし 彼はお構いなしにそのバリアを蹴破って入ってきた 「お~ここだけ空いてるじゃん」 わざと大きな声で言って黒田は右隣に 一緒の工藤は向かいの席に座る 迷惑をかけた上に余計な気遣いをされる程、いたたまれなくなる事はない 「私の傍に近寄らない方がいいわよ……」 「まぁまぁ、いいじゃん」 と、工藤が器用で綺麗な手でお箸をパクパクパクッと動かす 「まだ、腫れてるな……可愛そうに……」 黒田は 蓮の右手を自分の手に取りわざとらしく擦った 全身が熱くなる 「オマエ、それはヤリ過ぎ……」 工藤が冷めた目で箸をパクパクさせた 「そんなことないさ、蓮は俺の大事なパートナーなんだから」 また蓮だなんて…… 「蓮?今、蓮って言った?……早川ちゃん、オッパイ見せたのホントだったんだ?」 工藤が 箸で眼鏡を上げて身を乗り出した 蓮は慌てて右手を引っ込める 「見せてません」 「見たよ」 「まぁまぁ、それより昼からミーティングしたいな模型造り始めたいんだよね」 と、工藤はさりげなく仕事に話題を持っていく こういった気遣いに蓮は何度も救われてきた 「ごめん、私……人事から呼び出されてるの」 「マジで?昨日の事?」 「うん……多分ね」 黒田がとたんに不機嫌な顔になる
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加