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周りの目が気になる
この2人が自分と同じ人種だと
勘違いされてはいけない
「じゃ、お先に……」
サッサと済ませて席を立つ
独りで居るのは慣れている
でも
啓吾の様な優しさにはどうしたらいいか解らなくなる
人事部といっても総務フロアの一角にすぎない
住宅メーカーのオフィスだというのに人事部の応接室は薄い壁に安物の扉
少しでも大きな声を出せば総務フロアに丸聞こえ
そんな所で例の男は大声でわめき出した
例の男とは蓮が殴った相手
彼は私の同期
入社も大阪で一緒だった
名前は「田中」
地味な名前と同じくやはり存在も地味だった様に記憶している
しかし
私のような人間よりは地味でもまともだったと思う
一緒に組んだ事はなかったが真面目で几帳面な仕事をするタイプで
確か昨年、東京に来たはず
今、目の前にいる田中君は全くの別人だった
「この女を傷害罪で訴えてやる」
といきなり田中はわめきだす
人事部長は慌てふためいて蓮に謝罪するように言った
当然だろう
人を殴ったのだから
しかし、部長がこだわっているのは誰が誰にどんな理由で殴られたかと言う事より
社内での暴力や裁判沙汰が何より怖いのだ
大人しく謝るしかない
そもそも私は問題児のレッテルを貼られている
いわゆる前科者
ところが
「謝る必要はない」
そう言ったのは私と同席してた
坂井チーフだった
「早川が謝る必要はない。彼女を訴えるのなら、こちらは君を名誉棄損とセクハラで訴えさせてもらう」
一同がその発言に驚いた
「チーフ、待って下さい……田中君に怪我をさせたのは私です……」
謝ってすむものなら土下座だってなんだってする
チーフに迷惑はもうかけられない
「それ以上に早川は傷つきました」
坂井の静かな迫力に
部長はそれ以上なにも言わなかった
私が傷ついた?
そうなの?
痛みなど、ずっと昔に失くしている
「後は俺が話しておくから、お前は仕事に戻れ。ミーティングをみんなが待ってくれてる」
「でも……」
「早く行け」
「田中君……本当にごめんなさい」
蓮はそれだけ言って部屋を出た
その時蓮は
田中の顔をまともに見ていなかった
後になってその事を後悔する
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