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部屋を出ると総務フロアの全員の視線が突き刺さる
私はどんなふうに見られたって構わない
痛みなんて感じない
チーフに迷惑をかけること
今の仕事に支障が出ないか
その事だけが心配だった
視線を全身に受けながらエレベーターに乗る
ひとつ上に昇るたびに扉が開き人が乗ってくる
乗ってくる人は必ず蓮をチラリとみる
中にはヒソヒソと話すヤツもいる
狭い箱の中だ内緒話になどならない
好きな事を好きなだけ言えばいい
痛くも痒くもない
ただし
私の事だけにして
別れた不倫相手の事は言わないで
俯く必要はない
わかっていても下を向くしかない
俯いてるから今、何階なのかわからない
このまま、一生エレベーターから降りれないんじゃないかと思った時
不意に右手を握られる
こわごわ横を見ると啓吾だった
いつ
どこで乗って来て隣にきたのだろう
「気にするな。」
チンと音がして扉がゆっくりと開く
「降りるぞ」
エレベーターの中の全員が振り返る
視線など痛くなかった
ただ
しっかりと握られた右手がズキズキ痛かった
痛みなんて感じないはずなのに
啓吾の優しさが痛かった
どうしよう……
この痛みを感じ始めた心を私は殺す事が出来るだろうか?
それにしても
なんて温かい手なんだろう
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