おぼえていますか?

6/17

47人が本棚に入れています
本棚に追加
/196ページ
オランダについて知っている事を挙げて下さい そう言われて多くの人が 風車 運河 木靴などを思い出すように 蓮も同じ程度だった 2度目といっても観光目的ではない しかし 今回は1度目と違い少し余裕がある ホテルを出てさっき部屋から見下ろしていた運河の跳ね橋まで歩いていく 橋を渡ろうとしたとたんに目の前に遮断機が下りて橋が動き始めた 蓮は驚いて辺りを見回すと人も車も通りの向こう側で止まっている 橋のたもとにある小屋からオジさんが何か言っているがオランダ語も英語も蓮には解らない どうやら『危ないから下がれ』というような事を言ってるようだ 少し離れて跳ね上がっていく橋を見ていると遊覧船が近付いて来てスルスルと目の前を通り過ぎていく 濁った運河の水が波をたてて広がっていく ぼんやり遊覧船を見ている間に橋はみるみる元の形に戻って 同時に止まっていた車と人 いや、正確には大量の自転車に乗った人達が押し寄せてきた やだ……凄い自転車の数 もたもたしているうちに自転車の波に飲まれ立ち往生してしまった 「きゃ!……やだ……」 あちこちで邪魔だと言わんばかりにベルを鳴らされる 体スレスレにすり抜けていく自転車に 思わず身をすくめて目を閉じる その時 不意に蓮の体を誰かがさらう様に 素早く橋の横に連れていった そして 耳元で囁くように 『大丈夫?』 それは 囁くというよりも息だけで話していると言ったほうが合っているような感じだった 蓮は驚いて見上げる 「あっ……あの……」 その人物は 蓮を見ると一瞬、息を止めるのがわかった 「あの、ありがとうございます……あの、日本の方?」 黒い瞳に 黒い長めの髪 蓮より若いと思われる男だった ジッと蓮の顔をまばたきもせず見ていたが やがて ゆっくりと笑顔になり コクリと頷いた
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加