おぼえていますか?

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不思議な空気を漂わせた彼の後ろに着いて跳ね橋を渡りきる 運河沿いにはレンガ造りの背の高い綺麗な建物が並ぶ 仕事柄、建物には興味がある しかし 残念ながら建築デザイナーではないので設計や図面をひいたりはできない ただデザインを起こすのは好きで、コッソリ独りで描いて楽しんでいる いつか 私のデザインを形にしてくれる人がいればいいなぁ…… 蓮は立ち止まって美しいレンガ造りの建物をボンヤリ見上げた 『カナルハウス』 風のように彼が囁いた 「え?……カナルハウス……」 うん 頷くとたすき掛けに背負っていた小さなバッグからノートとペンを取り出し何かを書き始めた そして 笑顔と一緒にノートをわたされる 『17世紀初めに東インド会社の豪商達が建てた邸宅。運河沿いに沢山ある。カナルハウスって言う』 「へぇ……17世紀?……カナルハウスかぁ…」 すると ノートをわたしの手からサッと取り上げサラサラと書き始めた 『中を見れるカナルハウスもあるよ』 「そうなの?」 彼は頷く そして 『行ってみる?』と書く 「行ってみたいわ」と言うと同時に あろう事かまたお腹がグゥと鳴る 彼はクスクス笑いながら 『とりあえずは腹ごしらえ!』と書いて見せた 「アハハ、もぅ腹ぺこ!」 2回もお腹の音を聞かれて今更、気取ったって仕方ない 彼はジッと私を見ると、また柔らかく微笑んだ その笑顔は不思議なモノだった いつか 何処かで逢った事があるのだろうか…… そんなふうにさえ思わせるような 一方で こんな異国で知らない人に着いて行って大丈夫なんだろうか? という自分がいたが 空腹と 時々、見せる彼の笑顔にすぐかき消されてしまった
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