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蓮のお腹の音でふたりの緊張が一気に溶けていった
彼が『腹ごしらえ』
に連れて行ってくれた所は市場だった
朝市のようだ
観光客相手というよりも地元の人達のマーケットらしい
新鮮な魚介類からお花や野菜、チーズ、お惣菜まで売っていて
いい匂いがアチコチから立ちのぼっている
彼は慣れた感じで次々と店を覗いていく
驚いた事に店主達とも知り合いなのか喋らない彼にみんな声をかける
それに笑顔で応えながら手馴れたように次々と買い物をしていく
キョロキョロとしている私にいきなり紙包みをわたされた
温かいその中からは
なんともいえない懐かしいような、いい匂いがホカホカとしている
紙包みを覗き込んで
「コロッケ?」と聞くと
嬉しそうに
うん
と彼は頷いた
2人は市場の広場を抜けて静かで小さな運河沿いのオープンカフェで飲み物を注文して河の側の席に向かい合って座った
熱々のコロッケ
少しのゴーダチーズ
そして
赤いパプリカ
「これ……どうやって食べるの?」
パプリカを指して思わず呟く
すると
彼は登山ナイフを出して2つに割るとキレイに中の種をとり
そこにゴーダチーズを乗せて渡してくれた
「このまま食べるの?」
うん
頷くと、もう半分も同じようにチーズをのせてガブリと頬張って見せた
「じゃ……いただきます……」
おそるおそる、
かじってみる……
「甘い……」
パプリカがこんなに甘い野菜だったなんて
嫌みがないのに濃厚なチーズとも最高にマッチしている
「おいしい!」
熱々のコロッケの中身は意外にもクリーミーな物だった
とにかく空腹のせいもあるのか
出てくる言葉は恥ずかしいけれど
「おいしい」だけだった
彼は
その蓮の姿をまばたきもせず見つめた
そして
ノートを出して
『名前は?』
と書いた
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