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見つめるその先、そこには何かがいた。
街灯に照らされたアパート用ごみ箱に上半身を突っ込むその様は、変態以外の何者でもなかった。
「うんしょっ……うんしょっ」
僕が変態に近づくにつれて、そんな声が聞こえてきた。
聞き間違いでなければ、かなり可愛らしい声だ。
心の底から聞き間違いであることを願う。
「うんしょっ……うんしょっ……ん?」
どうやら僕の気配に気付いたのか、一旦顔を上げる変態。
見間違いでなければ、かなり可愛らしい。
心の底から見間違いであることを願う。
あれだけ可愛らしい子が、ごみ箱なんかに上半身丸ごと突っ込んで、魚の骨を口にくわえるはずがない。
「…………」
「…………」
「…………」
「う、うんしょっ……うんしょっ……あばーん!!」
最後の「あばーん」というのは、僕がごみ箱を蹴り飛ばしたからだ。
僕と目が合ったにも関わらず、再び作業を続けようとする考え自体がおこがましい。
蹴り飛ばされたごみ箱は横に倒れて転がり、しばらく進んだとこで止まる。
そしてそれに蹴りをもう一発。
「あばーん!!」
これはただ僕がもう一度セリフを聞きたかったからだ。
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