序章、或いは追憶

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 日本には、八百万の神様が居るらしい。この『八百万』というのは途方もなく多く、という意味であって正確な数字を表すものではないけど、言うなれば最低それくらいの数は居るのだろう。  ――あの日、僕が出会った少女は、自分もその中の一つだと言った。そして最後まで、一人だとは言おうとしなかった。  つまり、彼女は神様だった。少女のような容姿、あどけない笑顔、弾む声音、時折憂いに満ちさせていた黒の瞳、小さくて細い背中を包み隠す黒髪。  出会ったのは、海に臨むとある神社。木々に覆われ存在を殆ど無くしてしまったかのようにひっそりと佇む、古ぼけた所。気まぐれに訪れたそこで、僕はたった数日の間に出会い、恋をし、別れ、泣いた。  ――これは僕と彼女の、秘密の物語。儚くも決して忘れ去られることはない、大切な日々の記憶。  僕はきっと、その微かな記憶を手放すことはないだろう。いつまでも抱き続け、伝えることの出来なかった想いを思い出し続けるだろう。  ――僕はただ、君という一人が好きでした。
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