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「うぅ……、そういうのが性悪だって言うのよ……」
早速僕の心の声を読み取った少女が、項垂れながら情けない声を漏らした。変な子だと思っていても、女の子をそんな風に落ち込ませてしまった分には悪いことをしてしまったと少し反省する。
「ごめんね。でも、本当のところ、君は誰なの? 正直……神様だなんて話は、信じられないしさ。今まで何度もここに来てるけど、君を見たのは今日が初めてだし。かといって、僕の心は全く知り尽くしてるみたいだから」
「だから、神様だってっ……。ああ、もう、良いわよ。信じてくれなくて。どうせ誰一人、こんなおんぼろ神社になんかお参りしてくれないんだし、たまにお賽銭投げ入れてくれるのはこんな性悪不信者だし――どうせ私だって、もうすぐ居なくなっちゃうんだし」
苛立ったように、卑屈になったようにそう言った少女は、立ち上がってくるりと踵を返した。長くて綺麗な髪が、秋の冷たい風に撫ぜられる。
そういえば、彼女はなんて名前なんだろう。面白い子だし、ちょっと気になる。
「私の名前は安孝よ。安孝神社、ここの名前。それくらい知っておきなさい」
「ふうん? ここって、そういう名前だったんだね。それにしても、安孝かぁ……。何だか男の子みたいな名前だね」
「別に良いでしょ、そんなの。私が決めた名前じゃないんだし。文句があるんだったら命名者に言いなさいよ」
文句ではないんだけど、確かにそれもそうだ。少女に言ったって、仕方がない。
僕の言葉を聞いて(口には出していないけど)、少女は縁を伝って、拝殿の裏にある本殿の方へ向かって歩き始めた。神様かどうかはともかく、これだけ自由にしているのだからここの関係者か何かなのかもしれない。
「自由に、っていうのは貴方もだけどね。それより、貴方の名前は? 目上である神様の私だけが教えるだなんて、不公平以前に失礼だわ」
「あ、それもそうだね。僕の名前は、遠江野幸久。ちなみに僕は明日もここに――安孝神社に来る予定だけど、君は?」
「随分と古臭い名前ね、昔の武将みたい。――私は明日も居るわよ。明後日だって、明々後日だって、いつだって居るわ。居なくなるまではね。でも、貴方の前に現れるかは知らないわよ。私の気分が向いたら、会ってあげる」
「良く言われるよ。そっか、じゃあまた明日、だね、安孝さん……っていうのは、ちょっと変かな。やっちゃんでいこう」
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