一章

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 そんなことを考えていると、不意に昨日聞いた声が上の方から聞こえてきた。そちらに顔を向けると、鳥居の先で髪を風に揺らす少女の姿。僕の前に現れるかは気分次第だと言っていたのに、出迎えてくれるとは素直じゃない。嬉しいから、どちらでも構わないけど。  止まっていた足を動かして、再び長い石段を登り始める。彼女はそれを確認して、くるりと身を翻して境内の奥の方へと歩いていく。多分、昨日と同じように拝殿の縁にでも座って待っているんだろう。  今日は、やっちゃんにちょっとしたお土産があった。何だか気難しそうな彼女が気に入ってくれるかは分からないけど、まあ、大丈夫だと信じる。 「ふう、相変わらず長いなぁ。やっちゃん、いつもここに居るって言ってたけど、毎日この階段登ってるの?」  階段を登りきって、一息。案の定縁に座っていた少女に、そう声を掛けた。 「だから、いつもここに居るのよ。この境内に。朝も昼も夜も、雨だろうと雪だろうと晴れだろうと何だろうとね。そんな悪趣味に長い階段を登るなんて、考えさえしないわよ」 「ふうん? ……ま、神様だもんね」 「……全く信じてもいないのに、よくも抜け抜けとそんなこと言えるわね」 「そんなことないよ。ほら、証拠に、今日はやっちゃん神様にお供え物を持ってきたんだよ?」  納得しない風な顔をしながらも、彼女はぴくりと肩を震わせて興味深そうにこちらを見てくる。そんな分かりやすい様子に少し笑って、 「欲しい?」 「欲し……くなんかないわよ! で、でも、私へのお供え物でしょう? だからまあ――ほら、ね? 私神様だから、寛大だから、貰ってあげても良い……わよ?」 「あ、ううん、欲しくないなら別に良いんだ。要らないなら要らないで、これとっても美味しい食べ物だから自分で食べちゃうし」  言って、学校のカバンからお土産を取り出す。袋に入ったそれ――福本渡船の近くにある『からさわ』というアイスクリーム屋さんの、アイスモナカ。実はしっかり二つ、彼女の分と自分の分も買ってきているからどうあってもあげる気なんだけど、やっちゃんの反応が面白いからついからかいたくなる。 「…………あんまりからかうようなら、神罰下すわよ」  湿っぽい視線で僕を睨みながら、そんなことを言う。
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